藤光 謙司

K e n j i  F u j i m i t s u

世界陸上2017 400メートルリレー

世界陸上初のメダル奪取。
アンカーで意地の走りを魅せた

決勝の6時間前。
アンカーには藤光の名が突然告げられた

同じライン上に、あの世界最速のスーパースター ウサイン・ボルト選手の横顔。その舞台に藤光謙司選手は立っている。予選突破のお膳立てをしたケンブリッジ飛鳥選手ではなく、藤光選手を起用する采配。その決断は決勝が行われる6時間前に下された。「素直にうれしかったです。走ることができる喜び、試合に出場できることの喜び、そして何よりボルト選手の引退レースに同じ走順で競技を共にできる喜びで高揚しました。『いつでもいけるぞ』という気持ちは作っていたので、走る準備はできていたと思います」と藤光選手は回想する。自身としては今回で4度目の世界陸上。前年にはリオデジャネイロ五輪も経験している。数々の大舞台で日本代表入りするベテランだ。「昨年のリオ五輪で銀メダルを獲ったことで、世界的にも注目されている種目。多少なりプレッシャーはありましたが、その中でしっかり結果を残すことができたことにまずはほっとしていますし、日本チームとしても成長があったのかなと思いますね」と振り返る。突然告げられた決勝戦の出場。奇しくも世界のレジェンドの引退レースと重なり、時間と空間を同じくして刹那の緊張を共にした。この経験は刺激となり、今後の飛躍へのきっかけにつながることだろう。

桐生選手から受け取ったバトン。
無音の世界でひた走った

トラックの大外9レーンには日本の第一走者・多田修平選手。号砲と共に飛び出す瞬発力は、ジャスティン・ガトリン選手の度肝を抜いたと報道されたほど。このレースに対しては「予選よりスタートが決まった」とメディアに語っていることからも、弾丸スタートは健在だったことだろう。バトンは第二走者・飯塚翔太選手へ渡る。実はバトン渡しでの失速を防ぐため、この時飯塚選手は距離の取り方に工夫を行っている。その作戦は成功し順当に桐生祥秀選手へ。桐生選手といえば、その後レースで100m走9秒98という公式記録を出す。その日本人最速の男が目の前に迫る。いよいよ藤光選手の出番だ。この瞬間の心境を問うと「まったくの無ですね。そういう意味ではいい形で集中できていたと思います。僕らの世界って何も考えてない時が一番よくて、頭で考えている時は集中できていないのかもしれません。レース直前は張り詰めますが、いざ始まってしまったら何も聞こえないぐらい無です」と語る。無我夢中でゴールをめざす。やっと周囲の歓声が耳に入ってくる。この瞬間、藤光選手は自分の着順もわからなかったと言う。「ゴールした瞬間、正直なところ正確な順位はわかりませんでした。掲示板に順位が示されて初めて『3位、獲った』という喜びを実感しました。僕が入ることでプラスにもマイナスにもなる可能性があった中、結果的に仕事を果たせたなと思っています」。世界陸上初となった日の丸掲揚に、チームの面々は「気持ちよかった」という感想を口にしたという。個々の走りはもちろんだが、新たな歴史を作ったことに対する達成感の方が大きいはずだ。ベンチで見守るケンブリッジ飛鳥選手のためにも、藤光選手はベテランの意地をかけた。

さらなる進化で完成形へ。
東京2020をめざす

あのレース。僅かな瞬間を駆けたボルト選手は、藤光選手と同じ31歳。その仲間は引退を遂げた。藤光選手は、それをどう捉えているのだろう。「自分の中で年齢的な概念はないです。ケガでパフォーマンスが落ちる、競技へのモチベーションが下がるなど引退要因があれば当然考えますが、実年齢=競技年齢ではないと思っていますので。むしろ逆で、自分にもまだまだのびしろがあるんじゃないかと感じています。今まで省エネトレーニングというか、体を酷使せずに練習してきたタイプなので、これまで行ったことのないトレーニング方法がまだまだあるんです。今はそれを一つずつ確かめながら取り入れているのですが、走りの変化に手応えを感じられるようになりました。その収穫は大きいですね」と力強い。まだまだ進化したい。その思いだけでも必ずや成長をもたらすだろう。時間をかけ、長期的なプランで、実直に眈々と、照準を東京オリンピックに絞る。

藤光 謙司

自分自身、埼玉の陸上競技界の人間として結果を残すということは一番大事なことだとは思いますが、下の世代にどういう風に伝え、高い目標を持ってもらえる選手を作っていけるかを考えています。また、自分が経験してきたことを活かし、よりよい環境を整備していくことや、可能性を広げてあげる役割も担っていけたらと思っています。僕も多くの人に支えられ、メダリストとして今日があります。それを下の世代にも還元してあげたいですね。

所属:ゼンリン

生年月日:1986年5月1日

自己ベスト:

10秒23(100m)、20秒13(200m)